それは初恋。
今振り返れば何が原因で振られたのかさっぱりわからんが、おそらく彼氏の婆さんが亡くなったことが決定打となったことらしいのはわかった。
◯◯(彼氏の名前)のヤヤコ(赤ちゃんのこと)を早く見たいと言い続けていたらしい。婆さんっ子だった彼氏は、叶えてあげられなかったと落ち込んでいたな。
突然に終わった恋は私から何もかもを奪っていった。何を見ても何を聞いても誰といてもどこにいても彼氏を思い出す。この世の終わりだと思って過ごした。
食べることも寝ることもできずとにかく泣いて過ごした。友達が心配して遊びに連れ出してくれたけど、思い出の場所を通るたびに涙が溢れてきてどうしようもなかった。
別れてみて初めて本当に彼氏を好きだったんだなと思った。また泣いた。
そんな私にも毎日必ず朝がきた。
朝がくるとメールがきていなくて落ち込んだ。夜が訪れると鳴らない電話を握りしめてまた泣いた。
苦しい。寂しい。辛い。会いたい…。
そんな日を過ごしている間に私の食は細くなりすぎていて、クッキーをひと齧りもするとそれ以上受け付けない体になっていた。
だから当然痩せに痩せて、脱ぐと骨の形までがくっきり浮き出ていた。
そんなある日、母親が真顔でたった一言こう言った。
「あんた、死ぬんか?」と。
普段口喧しく詮索してくる母親があの時はこの一言だけだった。だけどおそらく気づいていたのだろう。その上でそっとしておいてくれていたのだ。
母親の声はびっくりするほど静かな声だった。そして悲しい目だった。
その時の母親の言葉で私は
食べなアカン
と思った。死んだらアカンと思った。
失恋から立ち直ったとは言わないけれど、少なくとも人生を諦めてしまうことがなかったのは
あの時の母親のあの一言があったからだと思う。
いつの時代も母親は偉大だ。